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5月のお薦め映画 

○『わが母の記』  (邦画・松竹) 118分

 土砂降りの雨の中、若き母と主人公(13歳)が道を隔てて対峙するシーンで映画は始まります。主人公は5歳から13歳まで親元を離れ、伊豆の山奥で祖母(戸籍上の祖母で実際は曾祖父の妾)に育てられた過去があり、自分はその時に母に捨てられていたという想いがあります。そんな母子のぎごちない関係と、主人公の心象風景が、絵画のようなワンショットで見事に表現されています。

 このように母に対して複雑な想いを持つ主人公が、成長して人気小説家(役所広司)となり、50歳を過ぎて父を看取った後、妹(南果歩・キムラ緑子)や家族とともに、痴呆が進む老母(樹木希林)を引き取り、看取るまでの24年間(1959年~1973年)を描いた作品です。

 原作の井上靖『わが母の記』は随筆のような自伝小説で、特別にドラマチックなストーリーはありませんが、この映画では、母子の葛藤という部分をドラマの軸にして、特に終盤には、原作にない映像的な見せ場を創造して、映画として感銘深いものにしています。

とはいえ、安易に感動を押し付ける(泣かせる)映画ではありません。基本的には、家族が織りなす日常スケッチを、美しい自然描写とともに淡々と描いた作品で、原作の雰囲気を壊す事なく、その風格と抒情性を上手に映像化した、とても繊細な文芸映画です。昭和30年代の生活描写も見どころのひとつです。

 大変上質な日本映画だと思います。樹木希林、役所広司、キムラ緑子、宮崎あおいが好演で、映像も大変美しい。特筆すべきは音楽で、大変ストイックでありながら効果的。バッハのヴァイオリン協奏曲を上手に使用しています。

 わかりやすい娯楽映画を好む方にはお薦めできませんが、味わい深い映画がお好きな方には絶対お薦めです。この作品は、映画館の暗闇で集中して見てこそ真価を発揮します。まさに「鑑賞」するという言葉がふさわしい映画だと思います。

 ※近日開催の映画鑑賞会の対象作品ですので、私の採点は控えさせていただきます。

                       H24.5.21 映画鑑賞会 上田則夫(記)
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